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インタビュー:by @jazz 吉川明子
最近のミュージシャンは音楽に対する愛情が少ないように感じます。愛情じゃなくて義務感を持っている。これをやっとけばいいんでしょ。うまくなれるんでしょっていうのを感じてしまう。そういう冷たさを感じるセッションが多いですね。テクニックはあるんだけど愛情がないのよりは、下手なんだけど一生懸命やっている、愛情だけでやっているっていうほうがよっぽど微笑ましいですよね。 (佐山雅弘)
● 佐山さんがジャズピアノに興味を持ったきっかけを教えてください。 小学校1年生の秋にクラシックピアノを始めたんだけど、僕は初見も早かったし、次々に教本も進むことができました。田舎だったから先生も、うちの生徒にこんなに弾ける子がいるんだっていうのが自慢でどんどん教えてくれてね。だから中学生のときにはショパンのエチュードも弾けていました。 ● 中学生としてはかなり高いレベルですよね。 そう。本当は良くないんだよね。そうやってどんどん進んでいってしまうと、一番練習したくない時期に難しい曲にあたってしまう。僕は、リストのハンガリー協奏曲でめげちゃったんだ。それで中学校でピアノをやめてしまった。小さいときにはあまり進まずに、でも鍵盤からは離れない程度にやっておいて、中学くらいでソナタを始めるくらいがちょうど楽しくていいと思います。 クラシックをやめたちょうどその時に、テレビでグレンミラー物語を見て、ジャズを始めました。どうみてもリストより簡単で楽しそうだったからね(笑)早速次の日に、楽器屋さんにいってその話をしたら、在庫にカウントベイシーの本があってね。しばらくはそればかり弾いてたなぁ。 ● 以後、どんなミュージシャンに影響をうけましたか。 中学はカウントベイシーに始まって、ルイアームストロング、グレンミラー。あとはオスカーピーターソン。ちょうど来日したときにおじさんがライブに連れていってくれて、それにしびれちゃってね。帰りにレコード買ってもらってずいぶん聴きましたね。 高校では、ハンコックやマッコイタイナーを先輩に教えてもらったりして、はやりどころをずっと聴いてきたって感じかな。高校では自分でジャズ研究会を作って、セッションをしていました。今思えば無茶苦茶なセッション。山下洋輔が流行っていたからね、テーマを吹いたらあとはフリー。(笑) ● 大学でもジャズを学ばれたんですか。 高校で、ハンコックがどうしてもわからなくてね。右手はコピーできても左手が全くわからない。どうなってるか知りたくて、国立の作曲科に入りました。 だけど結局1単位も取得せず、1年生を2回やって0単位のまま除籍!(笑) ● 0単位!どうして単位をとらなかったんですか。 働きだしちゃってね。最初はマージャンで稼いでたんだけど(笑)いつのまにか雀荘の借金が重なって、ついにキャバレーにやられるんです。最初はそこで演奏した給料を天引きされて借金の返済(笑)若くてジャズやりたいやつらはみんな、安いギャラでこき使われていましたよ。そこで借金を完済して身ぎれいになって、次の年は大学にいこうと思うんだけど、その時にはもうジャズ喫茶で売れ出してしまっていたんです。学校よりもそっちのほうが楽しくなっちゃってね。 ● それからの佐山さんの活躍はすごいですよね。あのRCサクセションでも活動されたり、クラシックのコンサートの作曲もされたりとジャズだけでなく幅広い活動をされていて。そんな佐山さんにとって、ジャズはどういう存在なのでしょうか。 ジャズからみると、全部が入るんですよ。クラシックはやることの決まったテンポも尺もあるものだと思えばいいし、8ビートだってそうでしょ。自由なものからキメキメのものまでジャズにはあるから、たいていの音楽はジャズの領域に入る。僕は自分のことをジャズピアニストだとおもっています。だけど、どんな音楽もジャズの一種だと思っているので、いろんなジャンルをやることに抵抗は全くないですね。 ● ちなみに、佐山さんは普段どのくらい練習をするんですか。 練習は嫌いなんです。そもそも練習が嫌いでクラシックやめたんだから(笑) だけど、このところクラシックの仕事も多いから、練習しなくちゃいけないんだけどね。 クラシックっていうのはね、100回弾けば弾けるようになるんですよ。手が覚えるまで弾けば弾けるようになる。本当に正直な音楽です。 ジャズはね、ピアニストによって2色あります。練習したフレーズやハーモニーを流れの中で選び出すピアノ家と、僕みたいなドレミファスケール2種類あれば何でも弾けるとおもっている作曲家的な人。後者はあんまり練習しないんです。スケールさえわかっていれば弾けると思ってるから。指がなまってればハノンでも弾いてさ。 だけど僕みたいなさぼり屋さんは今どき珍しい。アメリカのミュージシャンも今すごく練習するしね。だからやっぱり練習はしなくちゃいけないのかな、でももう50も半ばだから勘弁してほしいね(笑) ● 佐山さんは、サックスの寺久保エレナさんやギターの馬場孝喜さんなど若手ミュージシャンとのバンドでも活躍されていますが、若手の育成にも力を入れているんですか。 若いミュージシャンをプロデュースをする気はないし、僕には向いていないと思います。ただ、若いミュージシャンと演奏するとたくさん刺激をもらいます。それが楽しいんでしょうね。 ● ライブでは馬場さんとエレナさんのあとのソロを取り合うとか。 そうなんですよ(笑)エレナのいいソロに反応していいインプロヴィゼーションができるからね。 ● 佐山さんはどこでそういう才能のある方を発見されるんですか。 僕は仕事で全国各地に行くのですが、なるべく連れられていくところには積極的に行くようにしています。馬場君には5年前に京都で会いましたね。地元の友達が面白いセッションがあるからって連れていってくれてその時に。 ● 佐山さんが普通のジャムセッションに行くんですか。 もちろんいきますよ。そして僕も弾く。人によっては緊張してしまって、私なんかっていう人もいるんだけどね。今日を逃したら次いつできるかわかんないのにね。その時にもそんな感じで、結局馬場君と2人になっちゃって。でも彼が知らない音列とかつかうからさ、すごく楽しくて。すぐ東京にくればよかったのに、彼はやっと去年上京した。 同じように沖縄に遊びに行ったときにドラムの国場と知り合って。でも今の子は腰が重いのね。なかなか東京にでてこない。と思っていたら札幌でエレナを見つけた。そしてタイミングよくみんな東京に集まった。そして今のバンドができた。めぐりあわせだよね。 ● 全国に才能のある方はいるんですね。 そう、今の人って結構みんなうまいんだよね。もちろん東京だけじゃない。名古屋なんかにも、ものすごいうまいのがいますよ。だけどベースとドラムはあんまりいないね。みんな同じようにうまいの。人形焼きみたいに。だけどそれじゃあ、つまらない。 ● 個性がないということでしょうか。だけど個性ってどうやってでるんですかね。 勉強しないことだと思うよ(笑) だけど今の情報社会じゃ勉強もしないとついていけない。少なくとも和声学くらいは勉強していないと相手にされないし、そこが難しい。僕らのころは酒と女だ!なんていってね(笑)練習する暇があったら酒飲んで女でも口説いてこい!なんて言われて。それで飲みながら先輩からオルタードがなんだなんていうのを聞いて覚えたのを後で自分なりに組んでいく。それからライブやレコードをコピーしたり。そういうことを勉強する環境が今はみんなそろってるからさ。恵まれてはいるんだろうけど。 ● 教本どおりにきちんと勉強しすぎてしまうからみんな同じようになってしまう、そういうことでしょうか。 そうだね。でもある程度勉強すればみんなミュージシャンになれるというのはいいことなんだと思う。結局、天才の割合は一緒でしょ。戦後の焼け跡にだって天才は出る。それを考えると、町の音楽家レベルのミュージシャンが多くなっていると思うんですね。 僕が思うのは、そこにもうちょっと愛情が欲しい。最近のミュージシャンは音楽に対する愛情が少ないように感じます。愛情じゃなくて義務感を持っている。これをやっとけばいいんでしょ。うまくなれるんでしょっていうのを感じてしまう。そういう冷たさを感じるセッションが多いですね。 テクニックはあるんだけど愛情がないのよりは、下手なんだけど一生懸命やっている、愛情だけでやっているっていうほうがよっぽど微笑ましいですよね。 ● 伸び悩んでいる人たちにアドバイスがあったらお願いしたいのですが。 結局問題は自分にあるんだと思います。僕はどうしてもわからないっていうやつには、昨日寝たかどうかを聞く。そうすると寝てるんですね。寝てるぐらいならまだ元気ある。眠れないくらいレコードを何度も何度も聴いたり、練習をしたのならば、できないなりに、自分なりの糸口は見つかるはずです。 伸び悩んでいるっていうのは誰か助けてくれないかなって思って待っていることですよ。もちろん解らなかったら聞いていいんですよ。僕だって悩んでわからなくなってしまったら意を決してここがわからないと先輩に聞きに行ったものです。そういうのの繰り返しでしょ。 だけど、わからないままじっとしていたらいつか誰かが教えてくれる人がいるって思っている人もいるみたい。叩けば絶対開かれる。自分で積極的にまずは叩かないとね。 ● 今後の佐山さんの方向性を教えてください。 実力のあるミュージシャン、うまい人とは刺激をたくさんもらえるからどんどんやりたいですね。あとはバンドも。せっかくなら、あれもこれもじゃなくてバンドカラーがはっきりしているものをやりたいですね。ピアノだからバンマスとしてやることも多いんだけど、実は人が作った難しい曲をヒーヒー言いながら追い詰められてやるっていうのが面白いんだよね(笑) お忙しい中、ありがとうございました。