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「今日はダメだったね。まぁ、また明日。」というのが、僕らには無い。 そういった緊張感から生まれるクオリティもバトルジャズ・ビッグバンドの魅力だと思っています。僕は、余裕があれば、良いものが録れるとも思っていないんです。 (吉田治)
●音楽を始められたきっかけを教えてください。 6つ年上の姉がいて、音大受験の為にピアノを習っていたので、そのレッスンについて行ったりしていましたので、小さい頃から音楽は身近にありました。 ・・・ですが、そこであまりにもシビアな世界を見てしまったので、親に、「僕にはピアノは習わせないでください」と、頼み込みました(笑)。 結局ピアノは習わなかったのですが、小学生の頃に自分でギターを買いました。 ●始まりはギターですか!? そうです。別にそれはギターをやりたいというわけではなく、当時、ギターをかついで、 日本を一周するというようなテレビ番組があって、なんとなく「ギターが欲しい」と思った程度なんですが(笑)。 とはいっても、音楽が好きで、何かをやりたいという思いがあったから、そこを糸口にしたかったのでしょうね。勿論、「禁じられた遊び」からやりましたよ。 その後は、一気に色んな音楽を聴きましたね。ギターを手に入れてからは早かったです。 ●バンドを組んだりされましたか? いえ、僕は福岡県の飯塚市に住んでいて、当時田舎でしたから、周りに楽器をやっている人なんか、いないわけですよ。ですから、まずは勧誘です。 友達に、楽器のカタログを見せて、「ベースとか、どう?」と、勧誘活動をしていました。お金を持っていそうな友達には「あ、ドラムなんかいいんじゃない?」と(笑)。 まあ、でも結局、バンドをちゃんと組めたのは高校に入った頃からですね。 それまでは、自分一人でフォークギターをやり、エレキギターをやり・・・というように。 その当時、僕は坊主頭でしたので、坊主頭でエレキギターなんて弾いていましたから、周りからは、不良と呼ばれちゃったりしましたが・・・。 ●ギターからサックスへ移行したのは、何かきっかけがあったのですか? 当時、フュージョンが流行っていたので、リー・リトナーや、ラリー・カールトンを聴いていたら、そのバックに入っているサックスが気になってきて・・・。 高校1年の文化祭では、ギターでCharをカバーしたりしていたのですが、ブラスバンドに入った事もあり、2年の文化祭の時にはもうすでに、サックス吹き始めてましたね。 ●サックスのどういったところに魅力を感じられたのでしょうか? その当時は、ニュー・ミュージックといって、荒井由実さんの曲とか、間奏に管楽器が多い時代だったんですよ。そこで、「この、歌の合間に入ってくる、かっこいい楽器は何?」と思いましたね。それと、先ほどのような外国のフュージョンバンドを聴いた影響ですね。 ●フュージョンのあとに、ジャズ、という流れですか? そうですね。その後、早稲田大学に行ったので、東京に住む事になったのですが、大学でハイ・ソサエティ・オーケストラに入った事がジャズに進んでいったきっかけですね。 でも実は、お恥ずかしい事に、その当時は、サックスを吹いていたにも関わらず、チャーリー・パーカーも知らなかったんです。 僕らの時代はフュージョンが流行っていたので、先にフュージョンから聴いて、その後にジャズの歴史を遡って聴いていく感じだったんです。 ●大学時代は、たくさん練習されましたか? そうですね。大学生とはいえ、やはり部室にばかり行ってしまいましたね(笑)。 しかも、ジャズという、新たな世界に入ったばかりだったので、練習も苦になるものではなかったんですね。ジャズを演奏する為に必要な練習などもたくさんありましたから。 その頃の蓄えで、今やっているという感じです(笑)。 ●どのような練習をされていましたか? 大学のビッグバンドでは、基本的な事は教えて頂きましたが、ほとんど独学ですね。 誰かにきちんと師事したりはしていないです。 ただ、管楽器というものは、まずは正確な音をまっすぐ吹ける事が重要なので、その事はもう、高校時代に、先輩にみっちり教えて頂きました。何が何でも、音を合わせる厳しい練習をしましたから(笑)。 ですが、やはりそれが今になって、すごく役立っています。 サックスはピアノと違って、ピッチが始めからきちんと合うわけではないので、まず、正確な音をまっすぐ吹く、という事は基本だけど、とても難しい事なんです。 ですが、あの厳しい練習のおかげで、そういう部分に関しては、一度も不安になった事はありません。 ●サックスや楽器をされている方にアドバイスはありますか? 何でも、共通している事だと思うのですが、基本を身につけるまでは、大変だし退屈でもあると思うんです。ですが、そこであきらめないで、何か、はけ口を見つけながらでも頑張って欲しいんです。壁を乗り越えた先に楽しい事がありますから。 サックスは安定した音を長く伸ばせるようになってはじめて、エモーショナルなフレーズが鳴らせるようになりますよね。ギターは、弾いたらすぐ、音が消えていくけど、サックスの場合は、それが無い。つまり、エモーショナルなフレーズが吹きやすい楽器ですから、そういう面でもとても魅力がある楽器だと思います。サックスの場合、そういった魅力もあるわけですから、基本のその先まで、是非、頑張って欲しいです。 ●厳しい練習はどうやって乗り切りましたか? もう、いつかジャズを吹ける時を夢見て、という感じですね。 いずれは、ジャズを吹きたいと強く思っていましたから。 あと、小さい頃から、なんとなく音楽でやっていきたいなというのを思っていたんです。 僕が子供の頃は、日本が発展途上だったので、親が凄く働いていたんですよ。でも、サラリーマンは定年で終わると聞いて、それはもう、凄くショックでした。「こんなに頑張っているのに、60歳になったらカット・アウトで終わるなんて!」と。 あまりに理不尽に感じたので、僕はサラリーマンではなくて、何か手に職をつけて、70歳になっても現役でいたいと思っていました。それで、音楽が好きだったので、音楽でやれたらなぁと。でも、親はそんなの絶対に許してくれるはずないとも思っていたので、結局、その意志を伝えたのは二十歳になってからでした。 ●プロ活動はいつ頃から始められたのですか? 実は、大学を出てから、音楽と全く関係ない企業に就職したんです。 ですが・・・やはり音楽をやりたくて、入社一年で脱サラしましたね。 本当は一週間でも、限界だと感じでいたのですが、そこはやはり親に「一年は頑張ってからにしろ」と、言われたので。 それで、本当に365日ぴったりで辞表を出して、辞めました(笑)。 「すみません。一年やってみたけど、やっぱり音楽でないと無理でした!」という感じで。 ●脱サラ後は、順調に音楽の仕事が入っていましたか? その時はまだ、有名なビッグバンドがまだいくつも存在していましたから、空きができたバンド等に入れて頂いたりして、割りとすんなりと仕事は入ってきました。 僕は音大出身では無いので、やはり得意・不得意な事の差があったのですが、プロのバンドに入れてもらえた事で猶予が出来た事は有難かったですね。仕事と勉強が同時に出来ました。 今だと、そんなバンドは無いから、同じような状況で始めたとすると、まずは生計を立てる事をしなければいけないじゃないですか。コンビニのバイトをしながらとか。 僕らの時代は一応、音楽で食べていけましたから、今の人達を見ると、凄いなと思います。 アルバイトしながらでも、音楽をやるという意気込みは凄いですね。 ●バトルジャズ・ビッグバンドをされるまでの経緯を教えて下さい。 僕は、学生時代からビッグバンドをやっているので、ある意味ビッグバンドに飽きてはいるんです。 最近はビッグバンドも増えて、色んなところからお声もかけて頂くのですが、 どうしても、やった事のあるものだったりすると、僕よりも、もっと新鮮味を持って取り組める方が入った方が、プラスになるのではないかと思って、お断りさせて頂く事が多いです。 また、学生時代に、ビッグバンドで、ひとつの事を突き詰めてやるという事を、プロよりも時間をかけてやってきたので、“本番前にリハーサルを軽く一回やって、完成度が高くなくても、披露する。”というような仕事だと、どうしてもストレスになってしまうんです。 そういうなかでバトルジャズ・ビッグバンドは、僕と同じように、大学のビッグバンド経験者が多いので、バックグラウンドが同じなんですね。これは僕の推測でもありますが、突き詰めてやるという事を、楽しめる人達が集まっているので。 バトルジャズ・ビッグバンドはビッグバンドを真剣にやれるから、僕はそこに魅力を感じて、取り組めているのだと思います。 ●ニューアルバムの聴きどころは? 難曲といわれる曲を、納得できるクオリティでやっているところでしょうか。 みんな、“しっかり練習してくる”という事が出来るメンバーばかりなので。 そういったところが、アルバムの完成度としてしっかり表れていると思います。 ●ビッグバンドでは、アンサンブルが大事ですよね。 そうですね。 例えば、管楽器はずっと吹いているわけではないので、一曲の中でアンサンブルって一部分なんです。ですから、その一部分の中でどれだけ強烈なものが出来るか、という事になります。 一部分を切り取って聴いても、それがきちんと価値のあるものになっているか。 そういう意味でも、一曲一曲、すごく緊張感のあるものに仕上がっていると思います。 レコーディングは、限界に近い状況で集中力を高めてやっていますね。 最近は、レコーディングと言えば、パート別に録音したりとか、曲ごとにミュージシャンが違ったりという事をされる方も多いですが、バトルジャズ・ビッグバンドは、全曲、全員で、しかも同じメンバーでやっています。スケジュール的にもギリギリのラインで、本当に厳しい状況で制作したんですよ。 「今日はダメだったね。まぁ、また明日」というのが僕らには無い。それが凄い緊張感となります。 ですから、僕は、余裕があれば、良いものが録れるとも思っていないんです。 ●一曲一曲の緊張感やクオリティがバトルジャズ・ビッグバンドの魅力ですね。 そうですね。 例えば、ビッグバンドは少人数の編成ではないので、自分が必要とされる時は、しっかり前に出て、そうでないときは、後ろにまわって人を盛りたてるという為にも存在しないといけない。あるところでは、目立つ、あるところでは後ろにまわる、という事を出来る人達でやっていなければいけないと思います。 役割がはっきりとしている事を演じきるという事が、ビッグバンドの魅力に繋がると思いますが、バトルジャズ・ビッグバンドはそういう事も理解しているメンバーが集まっています。つまり、ビッグバンドの職人の集まりなんですね。 ビッグバンドの職人が集まって、ビッグバンドをするという感じです。 ●音楽以外の趣味はありますか? 仕事でサックス以外にも、クラリネットなど様々な楽器を吹くので、それらの練習時間で一日が埋まってしまいますね。時間がなかなか取れないというのもありますが、音楽で全く飽きないんだと思います。ビッグバンドも、キャリアが長いとは言え、日々、小さな発見もたくさんありますから。 あとは、おいしいものと、お酒を飲んで。それで幸せです(笑)。 ●今後の展望を教えて下さい。 今回のアルバムが5枚目で、僕のアレンジしたものが8曲中、4曲入っています。 前作までのアルバムに比べて、自分の作品の割合が5割と、非常に多くなりました。 今までは、有名な曲を演奏するという事がメインでしたが、今回は、自分の作り出したものを演奏するという事が増え、また違った不安感や楽しみがあり、アーティストってこういう気分なのだなと、思いました。 今後は、作曲もしていくと思いますし、そこにある不安感なども、それはまた楽しいものだと思っています。