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ケイコ・リー ジャズ シンガー

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インタビュー:by @jazz 吉川明子


世界の一流ミュージシャンとコラボレーションする女性ジャズシンガーからの、ボーカルアドバイス。


人生にはいろんな回り道があって、その回り道での経験や出会った人は、全て自分の血となり、肉となるのだと思います。「歌」っていうのはそういうもの全てが反映される。テクニックがどうのとか、歌詞が覚えられないなんてどうでもいいんです。大切なのはいかに心でうたえるか。ストレートに素直にうたう事が上達の近道だと思います。
(ケイコ・リー)



●もともとピアニストだったケイコさんがシンガーに転向されたキッカケはなんだったのでしょうか。

もともと声が特徴的で歌うことを勧められる機会も多かったのですが、目立つのが苦手で、シンガーになるつもりはありませんでした。
だけど毎日毎日ピアノばかり弾いていた25歳の時に、このまま年齢を重ねたら、自分に何が残るのかと不安になったんです。何か行動を起こしたくてアメリカに行き、西海岸から海沿いにまわりました。
旅の途中で、海岸沿いの小さなピアノバーにふらっと入ったんです。地元の人しかいないようなところで、町の人と話していたら弾き語りでもやってよと頼まれたんです。みんな酔っぱらっていたし、知っている人もいなかったからいいかと思って、知っていた曲を1、2曲弾きました。

歌い終わったらものすごい拍手でした。ばかにされているのかなと思ったくらい(笑)口々にそこにいた方が本当に良かったといってくれて、そうなのかな、あれで良いのかなという気持ちのまま、ニューヨークに着きました。そこでカーメン・マクレエのライブがあるというのを知り、聴きに行きました。ジャズシンガーのライブをみるのは初めてで、あまりのかっこよさに衝撃を受けました。

そろそろ20代も後半にさしかかって来るその時期に、そんな経験をして、私の頭の中に、ふっと「歌手」がよぎったんです。日本に戻って来てから、地元の知り合いのライブハウスで、ちょっと演奏させてくれるかなってお願いしました。そして、歌わせてもらったのですが、自分が思い描いていた100分の1も出来なかったんです。もう、悔しくて、恥ずかしくて。リベンジしなくちゃと思って、次の月にまたお願いしました。必死で勉強して研究して、次の演奏に準備しました。それでも思い通りにはならない。そうしてまたリベンジする。そんなことをしているうちに、ピアノの仕事と、歌の仕事の比率がだんだん逆転してきたんです。歌の仕事が本格的になっていった。それが27歳くらいでした。

●歌は独学で学ばれたのですか。

はい、独学で学びました。
私が小さいときに、父親が足のつかない海に私を落とすんです。死にたくなかったら泳げ。そうやって泳ぎ方を教えてくれました。極端ですけど、歌も同じ。自分が思い描く程上手く歌えることはない。勉強しすぎて、準備しすぎて、これ以上もう入らないと思っても100点はとれない。今だに私はそうです。だからリベンジを繰り返すんです。とにかく実践でしかボーカルは上達しないと思っています。だから今でも人に教えるのは苦手。肌で、心で感じろという風にしか教えられないから先生には向いていないですね(笑

●@ジャズユーザーのボーカリストにも遅くボーカルを始めた方は多いと思うのですが、アドバイスをいただけますか。

何をやるにしても遅すぎることなんてないし、歌に関しては私自身、少し早かったかなと思うくらいです。人生にはいろんな回り道があって、その回り道での経験や出会った人は、全て自分の血となり肉となるのだと思います。「歌」っていうのはそういうもの全てが反映される。テクニックがどうのとか歌詞が覚えられないなんてどうでもいいんです。大切なのはいかに心でうたえるか。ストレートに素直にうたう事が上達の近道だと思います。あるがままに歌って下さい。

●影響を受けたミュージシャンはいますか。

出会ったミュージシャンや音楽は全て影響を受けているというのが本音です。だけど勉強という意味では、王道のエラ・フィッツジェラルド、カーメン・マクレエ、サラ・ヴォーンはよく聴きました。男性だとフランク・シナトラやナット・キング・コール。やはりスタンダードのミュージシャンを一番お手本にしました。
メロディを崩すよりも基本に忠実に歌う事からインプロビゼーションは始まると思うんです。基本をわかっていないと崩しても意味がない。ストレートなメロディを理解した上で歌うことが大切だと思います。今は気楽に一曲ずつ音源を買えるような時代だから、歌も勉強しやすいと思います。歌だけでなく、管やピアノトリオを聴いて、フレージングを勉強することもよくしました。
昔は大変でした。一曲仕上げるにも何バージョンも聴かないと歌の解釈が出来ないので、月に何十枚とCDを買っていました。とにかく、それまで歌手になるための勉強をしてこなかったので、知識が無かったんです。それを埋めるかのように、寝ている時間以外はずっと音源を聴いて練習していましたね。

●幅広いジャンルをカバーされているケイコさんですが、ジャズの魅力はどういうところに感じますか。

ジャズは自由です。自由ってつまり、責任を自分で持つということ。自分で尻拭いができるためにはそれなりの経験や度胸、繊細さが必要です。だからジャズはその人の全てが反映されてしまう。私は初めて会うジャズミュージシャンと挨拶するだけで、その人がどういうプレイをするか分かります。

●今回のアルバム、FRAGILEにはどのような意味が込められていられるのですか。

今回のアルバムは全曲にそれぞれのドラマ、それぞれのストーリーをもっています。その中の人間のもろさや儚さ、いわゆるFRAGILEな部分を表現したかった、今思い起こしてみるとそう思います。

●今回のアルバムの聴きどころを教えて下さい。

今回は、ケニーさん(ケニー・バロン)のピアニストとしての素晴らしさを存分に引き出した上で、シンプルに仕上げたかったんです。そしてジャズ、イコール、4ビートという固定観念も捨てたかった。
  ケニーさんに参加してもらうのは5枚目なんです。95年から一緒にレコーディングをしたり、飲みに行ったりして、また今回一緒に出来た事を本当に嬉しく思います。最初から今くらい歌えてたらとも思いました(笑)
それから今回は彼にフェンダーローズで弾かせてしまった、というのも聴きどころだと思います。彼自身のアルバムでもいつ弾いたかなっていうくらい珍しいと思うのですが、お願いしたらOKしてくれて。とても楽しかったです。

●今後のケイコさんの方向性を教えて下さい。

特に決めてはいないので、次にやりたいことができたらそれに取り組むという感じです。オフも、私の場合は特に趣味というものがなくて、次の音楽活動に向けて休養するという感じなんです。体作りのために運動したり、マッサージに行ったり、美味しい物を食べて心を豊かにしたり。これからも元気な姿でお客さんの前で歌って行きたいので、その準備が中心です。今後もいろんなミュージシャンとコラボレーションしたいですね。ベテランから若いアーティストまでいろんな方から刺激を受けたいです。そういうお話をいついただいても大丈夫なように、常に間口を広くしていたいと思っています。


お忙しい中、ありがとうございました。


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