● 音楽をはじめられたきっかけはなんですか?
ピアノをはじめたのは3歳の頃、ピアノ教師の母の手ほどきでした。
戦前の生まれで、戦時中に祖父にねだって買ってもらったピアノの虜になって以来ずっと音楽人生を歩んできた母なのですが、私もその影響を受けているのでしょうね。
私だけでなく上の兄2人と姉もみんなピアノを弾いていて、母のお弟子さんも家によく出入りしていたので、生まれた時からいつも絶え間なくピアノの音が鳴っていました。だからクラシックのピアノ曲で有名なレパートリーは繰り返し何百回も聞いていました、これでもか、という位(笑)。♪とか、音符が書いてあったプラスチックボードを積み木がわりにして遊んでいるうちに、気がついたら音楽の世界に入り込んでいた、そんな感じです。
● ジャズに目覚められたきっかけは?
ふと耳にしたラジオの音がきっかけでした。その時私は中学生で、家のリビングで偶然流れていたジャズに “ん、これは何だろう”と反応したんですね。後で調べたらオスカーピーターソンのアルバムだったと分かったんですが、テンポ感やハーモニー感に“ぐっと”きました。それから音源をかたっぱしから集める日々がはじまりました。
● 影響を受けたミュージシャンは誰ですか?
好きなアーティストはほんとにたくさんいますね、感覚的に素敵だなと思った音はジャンルを問わず。なかでもコルトレーン、マイルス、グレン・グールド、ミケランジェリは愛聴しています。スティングやボーズ・オブ・カナダにも好きなアルバムがあります。最近はピアノ・コンチェルトもよく聞いていますね。
● バークリーと芸大をご卒業なさっていますが、両校での学生生活の相違点は?
ボストンへ留学してまず一番良かったなと思うことは、音の国際感覚が身についたことです。様々な国から生徒が集まってくる大学だったので、夜中までセッションしたり、ライブに呼んでもらってピアノを弾いたりして一緒に音を紡ぎながらお互いの出身国をごく自然に理解し合うことができたのはかけがえのない時間でした。現場の音楽シーンとのつながりも深かったので、授業のためにというよりもセッション仲間を見つけに学校へ行っているような感覚もありましたね。プライベートも、気軽にひらいていたホームパーティで、本場のサルサを教わったり、レストランではなかなか味わえないその国の家庭料理を教えてもらったりできて楽しかったです。
芸大にいた時ももちろん仲間との情報交換の場はありました。「キャッスル」という音楽学部の学食だったのですが、5分も座っていれば必ず誰かしら仲間に会えるところで、コンサートや音源、面白い企画話などを盛んにしていました。芸大時代は副科で様々な楽器に触れて知ることができたのもとても良かったです。ガムラン、尺八、パイプオルガン、チェンバロなどもこのとき初めて触れたのですが、作曲する時にもとても役立っています。
● 音楽以外に現在興味を持っていることはありますか?
星や宇宙に興味があります。日常の空間も実は宇宙空間であるし、私たちも宇宙の住人である、それでいて未だ解明されていない部分がほとんどである・・・そんなところに魅力を感じるのです。遠い光や途方もない時間の感覚を音にしたいと思っています。NEWMOON(新月)、SUNRISE(日の出)やEARTH(地球)など宇宙に関連したオリジナル曲も書いています。NEWMOONとEARTHは先日2月のコンサートでオーケストラに編曲したものを演奏したのですが、エネルギーの表現の幅が広がっていくのを感じ、至福の時!!でした。今後も、ピアノトリオの公演を続けながら、オーケストラとの共演も機会があれば積極的に行っていきたいと思います。
また、私は動物が大好きなので、公園にお散歩に行ったりして犬の動きなどを眺めているのが好きです。反射神経も音の感じ方など人間とはまったく違った身体能力や感性を持っているので、動きや表情を観察していると楽しいです。
● ニューアルバムについてコメントいただけますか?
ニューアルバムは年内にレコーディングの予定で、曲もいま書きおろしているところです。このアルバムのレシピは、“今、この瞬間”を生きる生の衝動、瑞々しい五つの感覚、広くて深くて遠い世界。それに少々ウィットを加えて。そのすべてを音の行間やタッチで表現したいと欲張っています(笑)。ピアノのという楽器の魅力を徹底的に追求したアルバムにしたいと思っています。ぜひ聞いてみてください。
● 今後の音楽活動について一言お願いいたします。
国外との交流を大切にしながら演奏や作曲活動をしていきたいと思っています。NY、東京に加えてもう一箇所拠点ができたらよいなと思っています。インターネットで世界が狭くなり、CDなど音源の流通も手軽にはなりましたが、でも、だからこそ、コンサートで生演奏をするという演奏家のオーガニックな活動がより大きな意味を担っていくような気がします。本人が飛行機に乗り移動しなくては成り立たない、手間がかかるのが生演奏なのですが、ライブパフォーマンスでこそ伝わる“心”があると信じます。その原点を忘れずに今後も一歩一歩踏みしめて活動をしてゆきたいと思います。
メール・インタビュー:@jazz 2007年3月21日
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