世界を代表するギタリスト、リー・リトナーのトーク&ライブが9月29日にYAMAHA銀座店で行われた。
リー・リトナーは、フュージョン全盛期を支えたギタリストを代表する一人である。デイブ・グルーシン、デビット・フォスターなどの一流ミュージシャンとの共演を重ね、フォープレイ、フレンドシップなどの数々の著名なグループに在籍。自身のグループではキャプテンフィンガー、リオファンクなど、名曲を多数世に送り出している世界を代表するミュージシャンである。そのリー・リトナーが90人ほどの音楽ファン、ギターファンに向けてトーク&ライブを行った。イベントでは質問コーナーや、お客さんをステージにあげてのクリニックなども織り交ぜ、世界的なリー・リトナーを身近に、深く知ることができる素晴らしい機会だった。
予定通りの夜7時、大きな拍手とともに現れたリー・リトナーのソロギターのイントロからイベントは始まった。今回は39th Walnut Valley Festival「International Fingerstyle Guitarhampionship」優勝の田中彬博さんをゲストに迎えてギターduoでの演奏だった。使用ギターはもちろん、10月1日発売のYAMAHAの新しいサイレントギターSLG110Nだ。前作に比べエフェクト機能も充実し、“リバーブ”に加え、“コーラス”と“エコー”のエフェクトタイプを追加したことにより、練習用だけでなく、ステージユース、レコーディングなどの場面でも活用範囲が広がった。音作りの心臓部であるDSPも変更している。ヤマハ製カスタムDSPを採用したことにより高品位なサウンドが得られるだけではなく、エフェクト使用時の電池駆動時間も従来の約7.5時間から約13時間(アルカリ乾電池使用時)へと、省電力化を実現した。ナイロン弦とスチール弦があり、今回はナイロン弦のタイプを使用していた。スチール弦タイプのSLG110Sは細めのネック形状にくわえ、指板および弦長もフォークギターと同様に設計されているため、よりフォークギターライクな演奏が出来るようになっている。
正直持ち運びが簡単でとても軽く、解体まで出来て7万3500円という安さのギターにそれほどのクオリティーを期待していなかった私は、1音目を聞いた途端度肝を抜かれた。もちろん、世界的な彼の腕があってこそだというのは言うまでもないが、本当に一流のサウンドが飛び出してきたのだ。ナイロン弦の温かく太い、心地良い音だった。楽器本体の胴鳴りがないとはまったく思えないほど深い音でサスティーンも十分にあった。高音も綺麗に抜けておりデッドな音域もなく、インタビューで彼に「この新しいサイレントギターを面白いサウンドを作る飛び道具的な使い方などでライブやレコーディングで使おうと思いますか?」という質問をしようと思っていた私はとても恥ずかしくなった。いつも聞いているCDのリー・リトナーそのままの音、手に届くくらいの距離感で、最高の演奏を楽しむことができた。
足元にはリバーブ用のLINE6と、ボリュームペダル、RadialのJX-2 SWITCHBONEABボックス、APHEX の PUNCH FACTORYのみの、シンプルなセッティングだった。
演奏についての第一印象は、いわゆる打ち合わせなしのセッションという感じではなく、きちんと構成やダイナミックス、2本のギターの役割分担など、しっかりとリハーサルを行った印象があった。そこはやはり世界を代表するリトナーの素晴らしい音楽に対する姿勢と愛情を感じることができた。
リトナーはイベント中何度も私たちに良い音を出すようにとアドバイスをした。「好きなミュージシャンの、フレーズではなく音色をコピーするんだ。そしてゆっくりのテンポで、アドリブではなく曲のメロディを練習するんだ。しかもいい音、いいアーティキレーションでだよ。」と繰り返した。演奏を聴きに来るお客さんは良い音と良いメロディが聞きたいんだということを教えてくれた。リトナー自身もウェス・モンゴメリーの音の良さに感動し、音やアーティキレーションをコピーしたそうだ。
イベント中盤、ギターを弾いているお客さんをステージにあげて練習方法のアドバイスを行った。内容自体は誰もが毎日やるごく一般的な基礎練習だったが、その基礎練習を熱心に教え、自身も真剣に取り組むリトナーの姿を見て、やはり基本が本当に大切なんだと私自身も勇気をもらった。彼は音楽のことになると夢中になるらしく、基礎練習をステージに上げたお客さんに教えているうちにアツくなっていき、途中通訳さんを置いてきぼりにして笑いがおきる場面も多々あった。リトナーの真剣で優しい人柄に会場全体が包まれ暖かい空気のままイベントは進んでいった。
途中YAMAHAエレクトリックナイロン弦ギターのNCX2000に持ち替え演奏したが、こちらも音が太く、ダイナミクスがよくでる印象だった。私はどうしてもエレクトリックナイロン弦ギターは音が細く頼りない音になるイメージがあったが、今回は音がきれいに前に出る印象だった。彼も「他のメーカーの物は生音でいい音を鳴らす目的で作られているが、YAMAHAのギターはPAを通したときにいい音が出るように考えられているから気に入っている」と説明した。確かにアコースティックの音をPAから出すと音やせしたり、イメージ通りの音にならないことがほとんどだが、今回のイベントでは全く違和感なく心地よく聞くことができた。
リトナーの過去の面白いエピソードなどもありつつ、終盤の質問コーナーではお客さんの質問に親身に答えていった。特に印象に残ったのは、曲作りの質問をされた時、「ギターやピアノ、ループトラックで曲を作るが、曲作りそのものをすることによって自分のスタイルを形にしていくことが出来るからたくさん曲作りをしなさい」といった話だった。彼も曲作りの上で自分のスタイルを作り上げていったようだ。
そして観客全員に惜しまれつつサイレントギターに持ち直し最後の曲を演奏した。最後の曲はYAMAHAミュージックスクールの講師の方を交えて3人での演奏で、彼はカッティングを中心に絶妙な伴奏も披露してくれた。音抜けも良く、全体のバランスも完ぺきだった。
そしてラストテーマのメロディを説得力ある音で唄いきったリトナーと共演者の2人に大きな拍手が送られてイベントは終了した。演奏終了後に大きな拍手が当然のように起こる空気になるということは、今回のイベントが最高のものだったということである。なかなか自然な拍手というものは起こるものではない。その意味でも今回のイベントは最高のものだったであろう。
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